この国の10月31日は、だいたい二つに分けられる。「ハロウィン」と「諸聖人の日の前日」だ。

万聖節の朝は来て -This is Hallowmas-

 クリスチャンが国民の九割を占めているような国でも、その全てが敬虔であるとは限らない。それでもこの国の人々は、どちらかといえばローマ・カトリックの教えを守って暮らしているほうだった。わりと最近までイギリスの一部だったからか、ハロウィンがどういうものであるかは知っていて、10月に入ればお菓子やカボチャが売り出されはするものの、ハロウィン休みを取って盛大に祝うほどではない。まあ、れっきとしたカトリックの祭日である諸聖人の日だって、現代では休みにはならないのだけれど。
 そんな10月31日の夜は、とても暖かく過ごしやすかった。ヨーロッパの他大多数の国々からは、季節も冬に差し掛かろうとしているのにどんな冗談かと言われそうな天候だ。けれど、一年の三分の一が夏であるこの国では、今になってようやく秋の気配が見えてきたころ。昼間なんて当たり前のように夏日になったりするのだから、地中海の小島に住むというのは厳しいものだ。明けて今朝の最低気温も18度。冬服を引っ張り出してくるにはまだ早い。

「おはよ、ケイリー。昨日どうだった?」
「昨日って?」
「パーティー、行かなかったの? ヴァネッサに招待されてたんじゃなかったっけ」
 一時間目は世界史の授業。席につくなり隣に座ったミランダが、わたしに昨晩の首尾を尋ねてきた。答えはノーだ。首を横に振り、わたしは適当な返事をする。
「うち、夜の外出厳しいから。あの子の家って遠いし、もったいないけど断った」
「ええー、顔だけでも出せばよかったのに! ヴァネッサはともかく、お姉さんはもう完全に本物のハーレイ・クインだったって言ってたよ。ああ、本当にもったいない」
 ミランダは言うけれど、彼女もヴァネッサもちょっとアメリカ流のハロウィンにかぶれすぎじゃないだろうか。わたしは生まれてこのかた一度もハロウィンに仮装したことがないし、特別にパーティーを開いたこともない。かといって別に、熱心なクリスチャンですと胸を張ることもできないけれど。
「そういうミランダこそ、こないだのテストのせいで家から出してもらえなかったんでしょ。お互いさまだよ」
「ああそうそう、もうマジ信じられない。あ、でもね、お菓子だけは隣のジェシカおばさんから貰ってきた。ケイリーも食べる?」
 ぎらぎらした包み紙の小さなチョコレートが数個、わたしの手元まで転がされた。わたしがもう一度首を横に振りかけたところで、始業のベルが鳴った。

  * * *

 ベルの音が戸口でからんと鳴り、店の主を最初に迎え入れる。ラナンキュラス通りにまします砂糖中毒者の聖地、「ルサールカ」の開店まであと二時間。昨夜のうちに撤収したカボチャお化けの飾りが、まだ少しだけ店内に残されていた。祭りは終わり、祭日が始まる。もっとも、この国で一般的な暦の祝日と、彼女の生活に息づいた暦との間には、少なからず差異はあったが。
「やれやれ、完売だ」
 栗色の髪を結った店主の女は、そう言って役目を終えた値札を取り上げる。むろん完売は何より喜ばしいことだ。しかし、昨日という日に合わせて焼き上げた数々の品――ハロウィンの主役の一つであるお菓子たちが、残らず手元から失せてしまったという事実に、一抹の寂しさを覚えたのもまた女にとっての事実だった。
「売れ残ったら自慢もかねて、船便で送りつけてやろうかと思ったんだがなあ。あいつめ、毎年毎年Instagramのフードポルノが過剰になっていく」
 今はアメリカに住まう双子の姉を思いながら、女は雑巾を取り出し、カウンターの上を丁寧に拭いてゆく。蜘蛛の巣柄のレースは取り払われ、暫しの後、クリスマスに向けた真っ赤なクロスと置き換えられた。季節感にいまいち欠けた外の空気に代わって、こうして冬への道筋を示してやりながらも、頭の中では未だに10月31日の夜がくすぶっている。目玉の形をしたチョコレートや、黒とオレンジの箱に入った髑髏のクッキー、たっぷりのカラメルにくぐらせたリンゴ、黒猫の耳を生やしたカップケーキ、そういったものが。

 女は考える――故郷にいた頃は思ってもみなかった。「今食べたいお菓子ランキング」でカボチャのパイがチョコレートを凌ぐ、そんな現象が起きうる日があることなど。ましてや、自分がひとかどの菓子職人として、その一角を担う日が実際に来るなどとは。数十年の月日も魔女の暦ではあっという間で、この国に移り住んで何十回目かのハロウィンは、イートインスペースのセッティングが完了すると同時に終わった。
「良いかね、我が姉よ、忘れがちなことなんだが、ソビエトにはハロウィンもガイ・フォークス・ナイトも無かった。そうだろう?」
 かれこれ三年は使っているスマートフォンを操作し、件の姉のアカウントをチェック。サンフランシスコとの時差は九時間だ。あちらでもあと僅かで日付が変わる頃である。未だWi-Fiを導入していない店内で、それなりの時間を掛けて最新の画像は読み込まれた。科学館の同僚たちと並んでポーズを取る、トウが立ちすぎた不思議の国のアリスはスルー。その直下に表示された写真に、女はそっと「いいね」を押した。スターバックスの限定フラペチーノ、お値段トールで4.25ドル。

  * * *

 もうスターバックスもマクドナルドも進出しているというのに、この国でキャンディコーンが売られているところだけは見たことがない。
 ハロウィンの翌朝を迎えるたびに、苔色の目の男は同じことを考えた。アメリカの文化は世界にあまねく通用すると言い切るほど、傲慢で世間知らずな合衆国民ではないと自負していたものの、この事実は生憎と予想外だった。所詮自分の知るハロウィンは、あくまでも米国の祭りに過ぎなかったということだ。ソファから重々しく半身を起こしながら、男はからからに渇いた息を吐く。睡魔から中途半端に奪い返した視界には、テーブルの上に散らばる菓子の食べかすと、極度に薄まったウイスキーのグラス、ホラー映画のDVDケース、そういったものが点在していた。
「おい、ルミ」
 低く掠れた呟きに、すぐさま男の隣から、なあにと応えの声がした。起きてたなら起こしてくれても――声のしたほうへ視線を向けながら、そんな不平を漏らしかけたが、男はしかし言葉を飲み込んだ。そこには、ディズニー映画のヴィランから背丈と貫禄を取り払ったような黒いドレスの娘が、両方の目をしっかり閉じて眠っているばかりだったからだ。ここまで即応的で明確な寝言は初めて聞いた。
「ルミ、起きろ、もうハロウィンじゃない。それとも時差があるのか?」
 サテン地の肩口を右手で揺すぶりながら、左手はテレビのリモコンに伸び、ビデオ待機状態の画面を通常の放送に切り替えた。画面に映る現在の時刻は午前八時過ぎ。
「……いや、違うな」
 男は首を振る。 「フィンランドとは一時間しか差がねえ筈だ」

 ややあってから、悪の女王にしては可愛らしいトーンのうめき声が上がったかと思えば、黒い天鵞絨の手袋を嵌めた二本の腕が、大きな伸びと共に虚空へと掲げられた。緑色の目がぱちぱちと瞬き、そして男の顔を見た。
「あなた早起きねえ、キイス」
 幾分舌っ足らずな響きの声だった。さっきの寝言のほうがよほどしっかりした発音だ。人間、半覚醒の状態が最も危ういということなのだろう。世の過ちも大体はそういう時に犯されている気がする。男はテーブルの上をもう一度確認し、木皿の上に残ったリコリス飴を一つ摘み上げると、半開きになった娘の口に押し込んだ。
「お前が遅いんだ。健全な生活習慣を六年間叩き込まれた男から見れば、完全に落第だぞ」
ほうはほそうなの? へほでもほうは今日は――」
 娘は暫しもごもごと口を動かしていたが、やがて真っ黒な飴を噛み砕いて飲み込み終え、ようやく正常な英語の発音を取り戻した。
「――今日は、あなたも及第とは言えないんじゃないの」
「何?」
「11月の1日でしょ? 大きなミサがあるって、聖パウロ広場の掲示板にあったわよ」
 亜麻色の髪の娘が手袋を外しながら、どうなの、と首を傾げて男の顔を見上げる。健全な生活というなら、精神的にも健全さを保てているのか、と尋ねているわけだ。勿論これには多分に冗談が含まれていたが、男は眉一つ動かさずにこう答えた。
「善良なキリスト者であることは事実だがね」
 そして、自らもリコリス飴を口に含んだ。
「悪いがおれは正教徒だ。衆聖人の主日は済んだし、火曜日は祭日でも斎日でもない」
「ごめんキイス、あなたが何言ってるのかさっぱり解らないわ。私、教会には通わないのよ」
「だろうよ」 鼻を鳴らすと、薬湯めいた甘い匂いが抜ける。 「似合ってるぜ、大魔女」
 わざわざ仮装なぞしなくとも、娘は魔女で男はハッカーだった。陽の光がいまいち当たらない世界の住民という意味では、ハロウィンの主役を誇らしく張ってもいい身分である。ただ、仮装であってもガイ・フォークスの仮面を被る気は毛頭なかった。ホワイト・ハットの矜持と共に、男はチャンネルを回す。今朝の特集は新しい医療ドラマについて。

  * * *

 アメリカの医療ドラマになら、ハロウィンの夜に吸血鬼を治療するエピソードぐらい存在するだろうか。事実のほどは定かでないが、ここラナンキュラス通りには実在の余地がある。というよりも、数時間前にようやく最後の患者を帰したところだ。日が昇る前に済んで何よりだった。老紳士は仮眠から目覚め、午前の診療に備え始める。
 晩秋でも燦々と太陽光線降り注ぐ地中海では、欧米で一般的な弱点まみれの吸血鬼は生き辛い。年間日照時間が2700時間を超え、にんにくのスープや魚のローズマリー焼きが郷土料理として一般化し、郵便局や交番より教会の数が多いようなこの国で、やれ日光は駄目ですにんにくアレルギーです十字架には触れません等と軟弱なことを抜かしてもいられないだろう。ゆえにこの国の吸血鬼は、例えばギリシャやイタリアのそれと同程度に強靭である。今回の患者もまた、救急車やタクシーは使わずに、しっかり自分の足で歩いて小さな医院までやって来た。そして適切に止血と傷口の保護、足の捻挫の固定などの処置を施され、当分は安静にするよう医師の助言を受けて帰宅した。友人たちに送る写真を自撮りしようとして、聖パウロ広場前の長い石段を踏み外したらしい。いかに最新鋭のスマホのカメラでも、吸血鬼を写すことはできないのではないか、と言っておくのは忘れた。

「ヴァレンティーノ、起きなさい。学校は休んで構わないが、朝食を取って薬を飲まなければ駄目だ」
 新しい白衣に着替えるより先に、老紳士は診療所の二階へと上がり、白いシーツに包まって眠る弟子に呼び掛けた。この少年は一昨日の夜、一足早いハロウィンパーティーに参加し、ドラキュラめかした真っ赤なラズベリー・パンチを三杯飲み干し、墓地に見立てたビスケット飾りのティラミス・アイスクリームを1パイント平らげた。そして見事に風邪を引き、本番である10月31日の間じゅうベッドの上の住人だった。浮かれすぎると痛い目を見るのは、吸血鬼も人間も同じだ。
「るせえな、ジジイ……頭痛えんだから黙ってろよ……」
「自業自得だろう。まだ暖かいとはいえ、寝る前に冷たいものは控えるようにと私は言ったはずだな」
 少年の声はくぐもって低く、普段のやかましいほどの快活さは鳴りを潜めている。それでも憎まれ口をきくことだけは止めないのだから、ある意味では根性が座っていると言えよう。病の床でも弱気にならずいられるというのは、良く生きるために大切な要素でもある。とはいえ口の悪さは直さなければならない。「汚い言葉が全てお菓子の名前に置き換わる呪い」は、今月も続投となりそうだ。
「ざけんなこのクロカンブッシュ……ああ、くそッ……」
 シーツの中で悪態をつき続ける、思春期を脱するにはまだ遠い少年に背を向け、老練の医師はゆっくりと階段を降りていった。弟子の気の緩みは常に律してゆくとして、病人には栄養と温もりを与えなければならない。そのためにはまず台所の鍋から、カボチャのスープを一杯汲んでくることだ。

  * * *

 カボチャのスープにガーリックブレッド、あるいは堅焼きビスケットをセットにして売る。ほんの少しの工夫が週末の売り上げを増大させ、ハロウィン・セールは大盛況のうちに終わった。スープにパンを浸すことには、誰だって喜びを覚えるのだ。ましてやそれが限定の、バターナッツカボチャを使ったポタージュなら。
 食べ物の旬というものをあらかた無視して存在できる冷凍食品とはいえ、季節感に乗り遅れることはしたくない。それがこの店の主の思いだった。幸いなことに一年を通して、何かしら食べ物にこじつけられるイベントが絶えることはない。冬はクリスマス、春はイースター、夏はビール祭り、そして秋はハロウィン。冷凍食品専門のデリカテッセン、「マダム・メルラの凍結物産店」には、昨日まで大量のカボチャ料理とお菓子のたぐいが並んでいた。
「次はクリスマスですよね、今年はどうします?」
 早くに出勤してきていた従業員の一人が、厨房から顔を出して「マダム」に尋ねた。店主はピンヒールの音を響かせて、話のしやすい距離まで歩みを進める。
「そうね、まあ毎年恒例のパンドーロと去勢鶏カッポーネの丸焼き、付け合せの野菜類は必ず要るとして、……今年こそ頑張ってクリスマスプディング売る? 去年はいまいち不評だったけど」
「カボチャのプリンじゃ負けなかったんですがね、『ルサールカ』に」
 商売敵としていがみ合っているわけではないが、やはりデザートを扱う身としては、同じ通りの偉大なキャンディショップのことを意識せざるを得ない。昨日まで橙色の菓子の売れ行きを競り合ったライバルに、次はどう挑むべきかは課題の一つだ。
「そりゃあ確かに、クリスマスプディングはイギリスのもんよ、ヴェロネーゼのあたしは門外漢よ。でもそれを言うならあっちだってロシア人じゃない? ネイティブじゃない度では別に大差なくない?」
「そうですね、それを言うならハロウィンも同じことですけど」
 結局のところ互いに「本場の味」という箔がないのだから、あとは実力のみで勝負するほかない。アイデアと技術と理論、もちろん愛情だって実力のうちだろう。いつまでもハロウィン気分に浸ってはいられない。頭の切り替えをいち早くして、次のシーズンに向かって行かなければ。お化けとコウモリの飾り付けを取り払った、白黒の店内をぐるりと一周し、マダム・メルラは不敵に笑った。カボチャのプリンで負けなかったのだ、プラムのプディングで負ける道理はない。そうだろう?

  * * *

 プラム・プディングの予約受付開始を知らせる札が、開店直後のパブのカウンターに立っていた。そして、その札には一瞥もくれることなく、二人の魔術師は刺々しい視線を飛ばし合っていた。片や大量のハムとチーズと黒パンが盛られた皿、片や小さなクロワッサンとボウル一杯のカフェオレを前にして。
「何度も言うようですがね、ステフ、ぜんたい君は古いんですよ。弟子がハロウィンの夜に外出したからって、一体何がそんなに嘆かわしいんです。ルミッキも君も良い大人ですし、別にここは政情不安で戒厳令下の街ってわけでもないんですから、放っておけばいいじゃあないですか」
「やかましい! 良いか、俺は別にルミッキの夜間外出そのものに苦言を呈している訳じゃないぞ。それこそ良い大人で、しかも魔女なんだ、秋の夜は魔術に打ってつけだからな。問題はその目的だ! 俺はてっきり、10月31日の夜に用事で出かけるなんて言うから、サウィン祭りの儀式に参加するものだとばかり――」
 二人のうち片方、まるでハロウィンの仮装を脱ぎ忘れたまま寝過ごしたような、丈の長い黒ローブ姿の男はそう声を荒らげた。そして黒パンにハムやチーズを雑に盛り、一緒くたに咀嚼してはビールで流し込んでいた。その様をヘーゼルの目で蔑むように見ながら、もう一人の魔術師は冷ややかな調子で遮る。
「君ねえ、いくらなんでもサウィン祭りはないでしょう。二千年ぐらい時代が違いますよ。そりゃあ君が時の流れに勝てず朽ちかけた骨董魔術師であることは重々承知ですが、それでも一応あの辺りがドイツ帝国と呼ばれるようになった後の生まれでしょうが」
「神聖ローマ帝国だ」 黒ローブの男がきっぱりと訂正した。 「二度と間違えるなと言ったろうが」
 もう一人の魔術師はカフェオレボウルに口をつけ、男の拘りを何の感慨もなく聞き流した。別にこの旧友の話を、わざわざ真摯に聞いてやる義務はない。別にこの店で待ち合わせて共に朝食を取ろうとした訳でもなく、ただ「寝坊したので朝食を外で済ませようとしたら、偶然その直後に入ってきて隣に座られた」に過ぎないのだ。

「大体、お前こそ何だ? 昨晩は随分とお楽しみだったようじゃないか。ハロウィンなんて所詮アメリカの乱痴気祭りだとか言ってた気がするが、ケイリーによればおめでたく仮装なんぞして酒と菓子をかっ喰らってたそうだな、ええ?」
 自らの怒りを粗末に扱われたと感じた男は、隣に座る若い魔術師のイタリア襟へ、詰問と共に指を突きつけた。対する魔術師――外見からは男だか女だか判別のつかない顔の――は、取り澄ました態度を少しも崩さずに、ドレスシャツの袖口を気取った所作で正した後、
「ああ、あのハンニバル・レクター? 大好評でしたよ。恐らく会場で一番ウケが良かったはずです。まあ、この私の演技力と美貌があれば不思議はありませんが」
 さも当然とばかりに言ってのけ、クロワッサンにバターとイチゴのジャムを塗り始めた。すかさず男が、指先を相手の襟元から頭へと移して反論する。凝った編み込みの施されたシニヨンヘア。
「ほざきやがれこの現代かぶれ、お前みたいな赤毛のアンソニー・ホプキンスが居るか。魔術師として恥を知れ」
GingerではなくバーガンディーBurgundyです」
 ヘーゼルの目が睨んだ。 「同じことを何度も言わせないで下さい。それと私がやったのは」
「マッツ・ミケルセンのほうでも変わらんぞ。ああ、全くお前は低俗だな! 私生活のあらゆる点で嘆かわしいことこの上ないな!」
「朝食がチーズとハムとビールだけの君に言われたくはないですよ」
「朝食がクロワッサンとカフェオレだけのお前が言えた台詞じゃないだろうが!」
 火曜日のパブのブランチタイムは、日曜の朝とくらべて格段に人が少ない。閑散としたカウンターは二人の魔術師の殺気で埋まり、他の客はみなテーブル席をそそくさと取る。カウンターの向こうでは、ごく平均的なイギリス人のハロウィンを慎ましやかに楽しんだランドロードが、困ったような微笑みを浮かべていた。メニューに唯一居残ったカボチャのポットパイの注文を受けて、ウェイトレスが軽やかにその後ろを通り抜けていった。

  * * *

 かくてラナンキュラス通りに、あまねく万聖節の朝はやって来た。

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